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04/03/2025 | Press release | Distributed by Public on 04/03/2025 19:20

人間味を大切にしながら進化する、生成AIで目指すCSの未来

人間味を大切にしながら進化する、生成AIで目指すCSの未来

2025年4月3日 コーポレート

みなさんは、カスタマーサービス(以下、CS)の業務と聞いてどのような内容を思い浮かべますか? 電話やメールでの対応を思い浮かべる方も多いかもしれません。
LINEヤフーグループでは、生成AIやチャットボットの技術を駆使し、問い合わせ対応の効率化と自動化を実現しています。たとえば、生成AIが問い合わせ内容を解析し、迅速かつ適切な情報を自動で提供することで、問題解決のスピードが飛躍的に向上しました。

LINEヤフーグループの6サービス(ASKUL、一休、ZOZOTOWN、PayPay、Yahoo! JAPAN 、LINE)は、年に一度、CS事例共有会「PALETTE(パレット)」を開催しています。このイベントでは、各社が持つ効率化の取り組みやノウハウを共有し、グループ全体の成長を目指しています。生成AIなどの技術活用による具体的な成果や、未来のCS業務のビジョンについて、責任者に詳しく聞きました。

番場 啓介(ばんば けいすけ)LINEヤフーコミュニケーションズ株式会社 執行役員
2011年にヤフー入社。2014年にYahoo!オークションのサービスマネージャーに就任、2016年にはYahoo!オークションのサービス推進本部長を務める。その後、2019年にはサービス統括(ID, メール)ビジネス推進本部長に。2021年にメディアCS本部長を務めた後、2024年から現職。
寺澤 里美(てらさわ さとみ)2005年ヤフー入社。全社特集、社会貢献系サービス、コーポレートサイトなどを担当したのち、2021年よりCS部門へ。ヘルプページのUXやチャットボットでの自己解決を促進させる領域を担当。セルフケアUX改善チームリーダー。

CS事例共有イベント「PALETTE」の背景と目的

――まず、「PALETTE」というイベント名の由来を教えてください。

「PALETTE」という名前は、各社の個性を異なる色として表現したことが由来となっています。各社のコーポレートカラーも異なれば、特徴も異なります。たとえば、ZOZOは温かみを大切にした対応をされている、LINEヤフーは機械化が進んでいる、PayPayは効率化が進んでいるなど、それぞれの色が違います。

各社の異なる色が混ざり合ったときにどんな色になるのか、どんな新たなシナジーが生まれるのか、というのがこのプロジェクトの出発点でした。このコンセプトは、ZOZOのみなさんが中心になって各社で作る事務局メンバーが考えてくれました。

――このイベントが生まれた背景や目的を教えてください。

「PALETTE」では、各社の強みを共有し合うことでシナジーを生むことを目指しています。
もともと旧ヤフーでは、経営層向けのCS報告会を隔週で実施していました。その後、LINEヤフー誕生前のZホールディングス時代には現社長の出澤にも参加してもらう形で、LINEとヤフー両社のサービス報告を行うようになりました。

その中で、「さまざまなグループがある中、この報告会を実施するのはLINEとヤフーだけで良いのだろうか?」という話になり、早い段階からPayPayやZOZOに、その後さらに一休とアスクルにも参加いただく形で、6社での報告会がスタートしました。

ただ、30分という短い会議時間では報告できる内容に限りがあります。「現場間での情報共有をもっと充実させたい」と考え、テーマを決め、各社が毎月事例を持ち寄ってオンラインで話し合う形式で実施するようになりました。これが「PALETTE」の原型となっており、各社が持つノウハウが広がることでLINEヤフーグループ全体のサービス向上を目指しています。

――この3年間で発表された取り組み内容にはどのような変化がありましたか?

初年度と比べると、生成AI、自動化といった技術に関連する案件が増え、発表内容もその方向にシフトしてきました。
特に、LINEヤフーはこの分野に強みを持っていると感じます。その一方で、ZOZOは「おもてなし」や「温かみ」を大切にしたサービスを提供し続けながら進化していると感じました。

イベントにはCEOの出澤も参加

技術力を基盤にした上で、人の温かみを加える

――CS業務において「温かみ」を大切してきた人にとっては、生成AIのような技術に頼ることはすぐには受け入れられない部分もあったのではないですか?

そうですね。私が赴任した2020年ごろは、ちょうど機械による自動化が始まった初期段階でした。当時、CSはまだ昔ながらの方法に頼っており、技術の導入を体感していない人が多かったのです。これまでのやり方が正しいと信じている人も多く、技術を導入することへの抵抗がかなりありました。

現場の方々のこれまでの経験はもちろん尊敬していますが、大きく変わろうとする組織や技術力の中では、根本的な考え方を変える必要があります。そうしない限り、いつまでも人力で対応する必要があり、長時間労働を続けることになりかねません。そのような対応を今後もずっと続けたいですか? と問いかけ、何度も話し合いました。

これからのCS業務においては全員が「技術力を基盤にした上で、人の温かみを加える」という考え方にシフトする必要があったからです。最初は抵抗を感じていた人たちも、最終的には理解してくれました。

機械化によって、よりお客様に寄り添った対応が可能に

――技術を特にうまく活用していると感じた取り組みがあれば教えてください。

現場のロジック整理と技術がうまくかみ合った最初の事例として、「インテント判定(※)」という手法の導入があります。これは、問い合わせの意図を正確に判定し、インテントIDを各フローに付与することで、お客様の意図に応じたナレッジを迅速に選べるようにするものです。
このプロセスの自動化により問い合わせ対応が効率化され、適切な返答文章をスムーズに提供できるようになりました。

※インテント判定:
顧客が問い合わせをした際に、その意図や目的を理解するための技術。たとえば、顧客が「アカウントにログインできません」と問い合わせた場合、この発言の意図は「アカウントのログインに関する問題を解決したい」。生成AIや自然言語処理技術を活用することで、問い合わせ内容から顧客の意図を自動的に判別し、その意図に合った適切な情報や解決策を素早く提供できる

私はチャットボットの推進やヘルプページでの自己解決を進めています。チャットボットの導入によって簡単な問い合わせはメールでお問い合わせする前に解決できるようになりました。その結果、メール対応ではよりお客様に寄り添った文面を作れるようになり、これまで以上に丁寧なコミュニケーションが可能になりつつあります。

また、CS担当者がこれまでメール対応やパトロールを主に行っていた業務において、AI人材を育成するという取り組みも進めています。このプロジェクトでは、モデル作成に必要な知識やスキルセットをコンパクトにまとめ、徹底したフロー化と明文化を行うことで、初心者でも2週間で独り立ちできるようにしています。

これにより、作業に迷いがなくなり、短時間でのモデル作成が可能となりました。生成AIと人間の融合を実現するこの取り組みは、AI人材の育成において非常に良い事例となっていると思います。
今後のCS業務では、特にヘビーユーザーが多いサービスにおいて、使い方の提案やより踏み込んだ提案ができるようになると期待しています。機械化によって人の仕事が減るのではなく、よりお客様に寄り添った対応が可能になると考えています。

――CS業務に生成AIを活用する上で特に大事にしている考え方はありますか?

ユーザーの満足度を高めることは、永遠のCSの課題です。速さ、丁寧さ、的確さなど、どの要素が重要かはサービスによって異なるからです。
たとえば、金銭が関わるサービスでは、時間がかかっても返金や保証が確実であることが重要です。一方で、利用したい機能の仕様がわからないユーザーにとっては、迅速な解決が求められます。これらはユーザーの状況や利用するサービスによって変わるため、柔軟な対応が重要です。

LINEヤフーグループとしては、生成AIの活用をさらに進めることでCSでの成果を期待しています。具体的には、生成AIに対する取り組みを強化し、メール対応だけでなく、パトロールや審査といった分野でも効率化を図ることを目指しています。

生成AIの活用によって、メール対応時間が大幅に短縮されました。具体的には、従来はメールの返信に3日かかっていたのが、現在では朝送信したメールが夜には返ってくるようになっています。この改善により、問い合わせ対応のスピードが向上し、顧客満足度の向上にも寄与しています。

CS業務では、大切なお客様の個人情報を取り扱うため、セキュリティを非常に重視しています。また、インターネット上での業務であるため、国内の規制にとどまらず、幅広い知識が求められる奥深い分野です。

これらの業務をより強化していくためには、機械化やシステム化、生成AIなどの新しい技術を適切に活用することがますます重要になっていくと思います。

生成AIと共存するCS業務の未来

――今後、生成AIなどの技術によって返答スピードや品質がさらに向上する中で、最終的にCS業務の理想形はどのようなものだと考えていますか?

技術の力によって人の介在を最小限にしていき、最後にはゼロにすることです。ただ、この目標を達成するためには、技術と人間の役割がどのように変化し補完し合っていくかを考え続け、改善を重ねていく必要があります。

その技術の一つがAIの活用であると考えています。特に、直近では自律型AIと呼ばれるものの導入も検討しています。 自律型AIは生成AIのように具体的な指示は必要とせず、高度で複雑なタスクを自己判断によって実行するAIのことで、 例えば、ショッピングカートに残ったまま決済していないお客様にお得な日を教えて決済を促したり、ヘルプサイト内のチャットボットで迷っているお客様にこちら側から声をかけたりできないかと検討しています。

現段階では、技術の精度はまだ改善の余地がありますし、人の温かみを提供する部分はまだ完全には代替できないからです。

現在、メール対応しているメンバーにはAIや新しい技術を活用できるようになって、機械による「迅速かつ最適な」スピーディな対応と、 感性や柔軟性など、「人ならでは」の温かい対応ができるようになってほしいです。 人と機械の双方の良いバランスをとりながら、より質の高いサービスを提供し続けていくことが、現代のCS業務の目指すべき方向性だと考えています。

さらに言えば、お客様が問い合わせをしなくても課題が解決できる世界が理想です。
お客様からいただいた意見や要望は、VOC(Voice of Customer)としてサービス部門にフィードバックしています。それらをもとにサービスが改善されることで、お客様からのお問い合わせが限りなくゼロになることが最も望ましい状態だと思います。

今後も「PALLETE」で定期的にCSの成功事例やノウハウを共有し合い、LINEヤフーグループ全体に広げていきたいと思います。この数年で生成AIの活用が一気に進みましたが、来年は各社からさらに進んだ内容を発表できるようにしたいですね。

取材日:2025年2月21日
※本記事の内容は取材日時点のものです

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