University of Tokyo

02/16/2026 | Press release | Distributed by Public on 02/15/2026 23:03

装置不要!生物汚染をわずか15分かつ室温下で目視検出 ──核酸アプタ...

2026.02.16

2026年2月16日
東京大学

発表のポイント

  • 従来130分以上かかっていたアデノシン三リン酸(ATP)検出について、反応条件の最適化により約15分で室温下の目視検出を可能にしました。
  • ハイブリダイゼーション連鎖反応(HCR)の律速因子やイオン条件を体系的に解析・最適化し、反応速度と比色検出感度のトレードオフを解消することで、加温不要・現場対応可能で迅速な検出を実現しました。
  • ATPは生物汚染の指標であるため、食品工場や医薬品製造現場での衛生管理・微生物汚染の迅速なスクリーニングへの貢献が期待されます。

発表概要

東京大学大学院総合文化研究科の吉本敬太郎准教授らの研究グループとダイキン工業株式会社 テクノロジー・イノベーションセンターの研究グループの共同研究により、微生物汚染や衛生状態の指標となるアデノシン三リン酸(ATP)(注1)を迅速かつ簡便に目視検出できる手法(図1)を開発しました。

本研究では、核酸アプタマー(注2)誘導型ハイブリダイゼーション連鎖反応(注3)の反応条件と金ナノ粒子(AuNP)による比色検出条件を体系的に解析・最適化することで、従来130分以上かかっていた測定時間を約15分に短縮し、専用機器を使わずに室温下で目視検出を可能にしました。本成果により、従来法に比べて大幅な時間短縮と温度条件の改善を達成し、現場での迅速な検査に適した高い操作性を実現しました。ATPは生物汚染の指標物質であるため、食品や医薬品等の衛生管理、環境モニタリングなど、迅速なオンサイト検査法(注4)としての利用が期待されます。


発表内容

〈研究の背景〉
ATPは細胞のエネルギー代謝に関わる中心的な分子であり、微生物汚染や衛生状態の指標として食品・医薬品・化粧品など幅広い分野で利用されています。従来のオンサイトATP検査法は、ルシフェラーゼを用いた発光測定が主流ですが、専用機器や電源が必要で、現場での簡易検査には不向きという課題があります。

こうした課題を解決するため、近年、AuNP、核酸アプタマー、さらにHCRを組み合わせた比色検出プラットフォームが、機器を使わずに目視で検出できる有望な代替手段として注目されています。本手法はAuNPの局在表面プラズモン共鳴(注5)という現象に基づいており、AuNPが分散しているときは赤色を呈し、凝集すると粒子間のプラズモン場が相互作用して共鳴波長が長波長側にシフトし、青紫色に変化します。そしてATPの存在を検出するために、核酸アプタマーという標的分子に高い特異性を持つ核酸分子が重要な役割を果たします。アプタマーはATPと結合すると構造が変化し、その変化を利用してHCRを開始します。HCRによって複数のヘアピンDNAが連鎖的に結合し、長鎖DNAが形成されます。長鎖の二本鎖DNAが形成されると、AuNP表面を保護する短鎖一本鎖DNAが減少して静電的な反発力が弱まるため、粒子が凝集し、赤から青紫への色変化が生じます。つまり、アプタマーはATP認識のスイッチとして機能し、HCRとAuNPの光学特性を組み合わせることで、目視による検出が可能になります。しかし既存の比色検出プラットフォームは、37℃の加温が必要であり、また、反応時間が130分以上と長く、迅速性に欠けるという問題がありました。

〈研究の内容〉
本研究では、ATPの目視検出における従来の課題である「長時間の反応時間と反応温度」を解決するため、核酸アプタマーを利用したHCRとAuNPを組み合わせた比色検出法を室温条件下で体系的に解析しました。HCRの反応速度に影響する要因をゲル電気泳動分析による評価を通じて調査し、さらに、HCR生成物とAuNPの混合条件を最適化してAuNPの凝集挙動を制御することで、従来130分以上かかっていた検出時間を室温で約15分に短縮する反応条件を明らかにしました。

一本鎖DNA(ssDNA)成分の総濃度は、HCRの反応速度に影響を与える最も重要な要因であり、イニシエータ(H0)と基質(H1およびH2)の衝突頻度に直接影響します。ゲル電気泳動とそのバンド強度の定量解析の結果から、HCRの進行度はssDNA濃度の増加に伴って高まることが確認されました(図2A,B)。図2Aに示すように、ATPを含むサンプルでは、高分子量領域に対応するHCRポリマー生成物の明確なバンドとモノマーssDNA基質であるH1およびH2のバンド強度の明確な減少が観察されました。特にイニシエータH0の濃度を高めることで、従来24時間かかっていた反応で得られるH1&H2消費率(44.2%)と同等以上の結果を、わずか60分の反応で達成できることが明らかになりました(図2C)。さらに、HCR反応速度に対する一価塩(NaCl)および二価塩(MgCl₂)濃度の影響を調べた結果、NaCl濃度がHCR反応速度の増加と相関しない一方で、HCR反応速度はMgCl₂濃度に強く依存することを確認しました (図2D)。


次に、HCRの高速化と比色検出の精度を両立させるため、HCR生成物とAuNP溶液間の混合条件の検討を行いました。迅速なHCRを促進する高濃度のssDNAは、AuNPの分散安定性を高める一方で、AuNPの凝集反応を著しく阻害する可能性があります。 H1、H2の濃度を変化させた条件下について、60分間インキュベートしたHCR生成物をAuNP溶液と直ちに混合し比色応答を調べた結果、総ssDNA量が一番低い条件において再現性良く100 µMからATPを検出可能なことが確認され、視覚検出感度に対する総ssDNA量の重要な影響が明らかになりました。さらに、総検出時間の短縮を目的として、HCRインキュベーション時間を検証した結果、わずか10分で効果的な視覚検出が可能であることがわかりました。本条件検討の成果により、最終的な反応総時間は15分に短縮され、またATP濃度100 µMから明確な色変化に成功しました(図3A)。最適化されたHCR反応条件下でATPおよびその構造類似体であるGTP、UTP、CTPを用いて本手法の基質特異性を評価した結果、ATP存在下で行われた反応のみが赤から青への明確な比色応答を示し、本手法のATPに対する高い特異性が確認されました(図3B)。


〈今後の展望〉
本研究の成果として、従来法に比べて大幅な時間短縮と温度条件の改善を達成し、専用機器を必要としない迅速・簡便なATP検出を実現しました。将来的には、電源不要なオンサイト検査キットとして、食品工場や医療現場における生物汚染の評価法としての利用が期待されます。


発表者・研究者等情報


東京大学

大学院総合文化研究科
吉本 敬太郎(准教授)
周 聖力(特任研究員)
深谷 広子(学術専門職員)
綿貫 峻介 (修士課程)
劉 偉(特任研究員)
横森 真麻(特任助教)
松尾 宗征(学術研究員・広島大学大学院統合生命科学研究科 准教授)

ダイキン工業株式会社

テクノロジー・イノベーションセンター
岡田 一也
吉岡 優貴奈


論文情報

雑誌名:Analytical Methods
題名:Optimization of aptamer-triggered hybridization chain reaction for rapid visual ATP detection using gold nanoparticles
著者名:Shengli Zhou, Hiroko Fukaya, Shunsuke Watanuki, Wei Liu, Maasa Yokomori, Muneyuki Matsuo, Kazuya Okada, Yukina Yoshioka, Keitaro Yoshimoto*
DOI:10.1039/D5AY01738F


用語解説

(注1)アデノシン三リン酸(ATP):
アデノシンと三つのリン酸基からなる高エネルギーリン酸化合物であり、細胞内エネルギー代謝の中心的役割を担う分子です。細胞が活動するときには必ずATPが使われるため、ATPが多く存在する場所=生物(細菌・カビ・細胞)が存在する可能性が高いことを示します。この性質から、ATPは食品工場や医薬品製造現場などで"衛生状態の指標"として広く利用されています。

(注2)核酸アプタマー:
標的分子に対して結合親和性を持つ核酸分子の総称。DNAからなるDNAアプタマー、RNAからなるRNAアプタマーなどがある。

(注3)ハイブリダイゼーション連鎖反応:
特定のトリガー(例えばATPや特定のDNA配列)によって開始される一定温度で反応が進む連鎖的なDNAのハイブリダイゼーション反応です。トリガー分子が存在すると、最初のヘアピン構造が開き、露出した配列が次のヘアピンと結合し、この結合により次のヘアピンも開き、さらに次のヘアピンと結合するという連鎖反応が進行します。結果として、長鎖の二本鎖DNAポリマーが形成されます。

(注4)オンサイト検査法
分析対象がある現場(工場、プラント、建設現場など)で直接検査・分析を行う方法です。ATPは微生物や細胞の存在を示す重要な指標であり、食品工場や医薬品製造現場、環境モニタリングなどで衛生状態の確認に利用されます。

(注5)局在表面プラズモン共鳴:
金属ナノ粒子(特に金や銀)表面の自由電子が、入射光の電場と共鳴して集団振動する現象です。この振動が光の波と一致すると「共鳴」が起き、特定の色の光を強く吸収します。凝集して粒子同士の距離が近くなると、共鳴の仕方が変わって吸収する波長が変化、つまり色の変化が起こります。

―東京大学大学院総合文化研究科・教養学部 広報室―

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