03/31/2025 | Press release | Archived content
近年、SNSを利用した詐欺が大きな社会問題となっています。魅力的な投資話を持ちかけたり、恋愛感情を抱かせたりして金銭をだまし取るSNS型投資詐欺・ロマンス詐欺が急増しています。こうした問題に対抗するため、LINEヤフーは2024年4月に社内横断の「不正対策プロジェクト」を立ち上げ、さまざまな対策を行なってきました。詐欺行為を撲滅するために、企業とユーザーに何が求められているのでしょうか。
前編では、本プロジェクトをリードした松本、LINEのトーク機能を担当する藤原、LINEオープンチャット担当の原田に、プロジェクト立ち上げの背景や各サービスでの取り組みについて話を聞きました。
松本:
これまでにもSNSはさまざまな犯罪に悪用されてきましたが、今回はSNS型投資詐欺が社会問題化していることを受けてこの取り組みを開始しました。SNS型投資詐欺は2023年の秋頃から被害が拡大し始め、初めは著名人になりすました広告が入口となり、被害が広がっていきました。
当初、LINEがどのように悪用されているのか実態が見えにくいところもありました。調査を進めていくと、1:1トークやグループトーク、オープンチャット、LINE公式アカウントなど、複数のサービスが詐欺に利用されていることが判明しました。LINEのサービスが悪用する側と被害者側の接点として使われていたわけです。
SNS型投資詐欺の被害が拡大する前から、各サービスやセキュリティ部門で専門的に不正対策を行っていましたが、SNS型投資詐欺は複数のLINEサービスで犯罪が行われていることから、サービスを横断しての対策が必要だと判断しました。こういった背景から、2024年の4月に不正対策のプロジェクトを立ち上げました。
原田:
具体的な理由の特定は難しいのですが、オープンチャットでは数年前から、悪徳業者が他の仲間のユーザーと一緒になって、一人のユーザーをだます手法が見られていました。これがLINEのグループトークに移行し、手口がより成熟したのが2023年頃ではないかと考えています。
藤原:
もともとLINEのトークでは、投資詐欺グループがアカウントを作って勝手にユーザーを追加していく手口が横行しており、ユーザーの通報によって不適切な行為が発見された場合はアカウントを利用停止するなどの対策を進めてきました。
また、LINEでは、友だちではない知らない相手からのトークやグループ招待を防ぐことができる「メッセージ受信拒否」という機能も提供しています。
ですが、最近では他のSNS上の広告が接触のポイントとして使われるようになってきました。そこからLINEに移行されると、ユーザーが自主的に友だち追加をすることになるので、私たちで判断ができず規制するのが難しいのが現状です。
松本:
SNS型投資詐欺の手口には多くのパターンがあるので一概には言えませんが、2024年の春ごろに多く報道された典型的なパターンとしては、著名人の知名度を利用して「絶対にもうかる」「必ず利益が出る」といったうまい話がまず接触ポイントで展開されます。
そこから「詳細を知りたい人はこちらへ」とLINEのアイコンからグループトークに誘導されるのが典型的な手口ですね。
藤原:
なかにはウェブサイトがしっかり用意されているものもありますよね。NISAなど注目の話題に絡めた構成になっていて、うっかり「本当にもうかるかもしれない」とだまされてしまうのも無理はないなと思います。
原田:
最近では、もう本物のウェブサイトと見分けがつかないぐらい精度が上がっていますね。最初のころは、片言の日本語が使われていることも多くて判別しやすかったと思うのですが、今ではそれも改善され区別が難しくなっています。
だからこそ、LINEのサービス上ではこれまで以上に注意喚起を徹底することが重要だと感じています。
松本:
2024年4月にプロジェクトを立ち上げる際、まずSNS型投資詐欺の被害が拡大している状況やLINEの複数のサービスが不正利用されている状況を関係部署に広く周知し、できる対策をとにかく実施しました。
プロジェクトで社内横断的に対策や分析を進めていくうちに、課題別により効果的な対策を講じる必要があると感じ、2024年7月にタスクフォース化しました。
メンバーの編成は、不正利用されているサービスの事業部や、私が所属する政策企画部門、さらにはセキュリティーや広報、法務、リスク管理など、幅広い部署から担当者をアサインしてもらいました。また、迅速な意思決定を図るためにステアリングコミッティを組成し、役員クラスの方々にもメンバーとなっていただきました。チームは合計で40~50人規模となりました。
原田:
オープンチャットでは、詐欺が疑われるオープンチャットの削除やユーザーのサービス利用停止措置の強化、全ユーザーとオープンチャット管理者に対しての注意喚起などに力を入れてきました。
全体として各サービスのモニタリングも強化してきましたが、手口は日々巧妙化しており、人海戦術でモニタリングするのはいたちごっこです。また、膨大なコストがかかるため、システムと手動のハイブリッドで対策を進めています。そして、各サービスが機能的に連携し同じ認識を持つ必要があるため、定例会議を開いて情報を共有し、より有効な対策法をLINEのサービス全体で協議しています。
藤原:
LINEのトーク周りでは、ユーザーに向き合い、注意喚起に注力しています。昨年の6月には、レターパックにある【「レターパックで現金を送れ」はすべて詐欺です】という文言を参考に、友だち追加の際などに注意喚起を出す対策を行いました。
LINEのサービス上での注意喚起
松本:
SNSを利用した投資詐欺やロマンス詐欺の手口は日々変化しています。警察庁や総務省、消費者庁などの関係省庁とは日頃から連携し、注意喚起の協力依頼や情報共有、法令に基づいてどこまで対応できるかなどの相談を行い、取り組みを進めています。
松本:
そうですね。SNS型投資詐欺は、被害者と犯人が接触し、実際にだまされてしまうまでにいくつものポイントがあります。そもそも犯人と接触しなければ詐欺に遭いませんので、ユーザーの皆さまに対して啓発活動や注意喚起の取り組みを継続的に実施していくことが必要だと考えています。
それと合わせて、モニタリングの強化によって被害を未然に防いだり、友だち追加時に注意喚起表示を行うなどのUI上の工夫を行ったりしています。一つの取り組みだけで詐欺などへの不正利用を減らすことはできませんので、様々な取り組みを試行錯誤しながら堅実に続けていくしかありません。
原田:
私たちが詐欺行為の検証用に使っているアカウントは、そうした情報によく触れているためか、詐欺グループによく追加される傾向があります。相手から「だまされやすいアカウント」だと認識されているわけです。つまり、同じように目をつけられているユーザーが大勢いるということですから、注意していただきたいですね。
藤原:
そうです。ただ、1:1トークやグループトークなど、クローズドなやりとりに移行されると、私たちのモニタリングが届かなくなります。プライバシーの問題でユーザー同士のコミュニケーションには一切関知しない方針のため、それが逆に不正利用を防ぐ際のハードルになっている面はあります。
松本:
ユーザーの皆さまのプライバシーを守る責務がありますし、LINEのトークでは「エンドツーエンド暗号化(※1)」を採用しているので、通報していただかないとトーク内容のチェックはできません。
原田:
だからこそ、少しでも怪しいと感じるアカウントに遭遇したら、しっかり通報していただくことが重要です。
※1 エンドツーエンド暗号化:
送信者と受信者以外の人がメッセージ内容を解読できないようにする通信方式で、サーバー上でもメッセージの内容は暗号化された状態で保存されます。
松本:
私たちの立場からは、警察がどのような捜査を行い、どこまで摘発に至ったかを知ることはできません。ただ、昨年からプロジェクトを立ち上げ、短期間で社内の対策意識を高め、取り組みを強化できたことには手応えを感じています。
おっしゃるように、警察庁の統計では昨年のピーク時と比べSNS投資詐欺の認知件数・被害額がともに減少(※2)し、LINEが悪用されるケースも減っています。こうした結果も、これまでの取り組みの成果だと思っています。
※2 「令和7年1月末におけるSNS型投資・ロマンス詐欺の認知・検挙状況等について」よりSNS型投資詐欺についての結果を抜粋
藤原:
詐欺被害額の減少に貢献できたことはもちろん、今回の取り組みを通して多くの学びを得られたことも大きな成果だと感じています。
不正者がLINEのプラットフォーム全体を行き来して活動している実態や、被害に遭われた方に対して警察がどのように捜査を進め対応しているかを知れたことは、今後の対策にも活かせると思っています。
原田:
新しい手口も次々に登場していますが、最近は日々の生活の中でメディアで話題になっているテーマがあると、「これは詐欺行為の材料に使われやすいのでは?」と感じて先行調査をするようになりました。
こうした調査を通じて、ユーザーを詐欺被害から守るための効果的な対策をこれからも検討し続けていかなければと思っています。
松本:
もともと部署ごとに専門的に不正対策に取り組む土壌はあったものの、こうして横の連携が確立されたことは、この1年で一番の成果かもしれません。現実には詐欺被害はまだ起きていますし、対策によって被害が減少しても、すぐにまた次の手口が現れます。
つまり不正対策に終わりはなく、常にサービスを俯瞰して目を光らせ続けなければならないという共通認識が根付いたことは大きいですね。
現状に満足することなく、ユーザーの安全を守ることを最優先に、日々巧妙化する手口へのさらなる対策を強化していきます。
取材日:2025年3月5日
※本記事の内容は取材日時点のものです