University of Tokyo

09/08/2026 | Press release | Distributed by Public on 09/07/2026 23:27

マイクロ流体デバイスを用いて食品添加物由来の均一ポリマーカプセルを作製...

2026.09.08

2026年9月8日
中央大学
東京大学

概要

中央大学理工学術院の鈴木宏明教授、理工学部精密機械工学科の権藤悠貴学生(研究当時)、大学院理工学研究科の宮下大輝院生、豊田和院生、津金麻実子研究員、および東京大学大学院総合文化研究科/生物普遍性研究機構の豊田太郎准教授らの共同研究グループは、これまでに開発した人工細胞作製用マイクロ流体技術を応用し、食品添加物として利用されているTGPR(テトラグリセリン縮合リシノレート)を用いた単分散ポリマーカプセルの作製に成功しました。さらに、得られたポリマーカプセルが、PCRや微生物培養を行う微小バイオリアクターとして利用できることを示しました。

細胞サイズの微小反応容器は、人工細胞の容器やバイオリアクターとして注目されており、創薬、分子診断、微生物スクリーニングなど様々な分野で利用が期待されています。これまで広く利用されてきた油中水滴(W/Oドロップレット)は、たくさんの並列処理を行える反応場として優れていますが、周囲が油相であるため、フローサイトメーターなど一般的な分析装置との互換性が低く、操作性にも課題がありました。

本研究グループは、以前に開発した均一ジャイアントリポソーム(リン脂質でできた人工細胞の容器)の作製技術を応用し、水中で安定に分散した均一ポリマーカプセルの作製に成功しました。本手法では、PDMS製マイクロ流体デバイス内で形成した均一油中液滴を、油水界面を通過させ、周囲が水であるポリマーカプセルを連続的に生成できます。さらに流路構造および操作条件を最適化することで、1秒間あたり約160個という高い生成速度を実現しました。

作製されたポリマーカプセルは、従来の脂質膜カプセル(リポソーム)と比較して優れた保存安定性と耐熱性を示しました。さらに、カプセル内部でPCRによるDNA増幅反応を実施できるだけでなく、カプセル内での大腸菌の24時間以上の培養にも成功しました。本カプセルは水相中に分散しているため、市販のフローサイトメーターによる解析も可能です。これにより、従来の油滴系では困難だった高スループット解析への応用が期待されます。本技術の確立によって、細胞や細菌、遺伝子のライブラリから希少な変異体を高速にスクリーニングすることが可能となります。

本研究成果は、食品添加物由来の安全かつ安価な材料を利用した人工細胞・バイオリアクター技術として、合成生物学、分子診断、微生物スクリーニング分野への応用が期待されます。

本研究成果は2026年9月2日に国際学術誌Dropletに掲載されました。


研究者

鈴木 宏明 中央大学理工学術院(先進理工学部精密機械工学科) 教授
豊田 太郎 東京大学大学院総合文化研究科/生物普遍性研究機構 准教授


論文情報

雑誌名:Droplet
題名:Microfluidic production of monodisperse food-additive polymer capsules for biological applications
著者名:Yuki GONDO, Daiki MIYASHITA, Kazu TOYOTA, Mamiko TSUGANE, Taro TOYOTA, Hiroaki SUZUKI
DOI:10.1002/dro2.70086


研究内容

1.背景
微小な細胞サイズのカプセルは、分子や細胞を隔離して大規模な並列反応を可能にするため、デジタルPCRや単一細胞の解析・スクリーニングなどに広く利用されています。従来、マイクロ流路を用いて作製される油中水滴(W/Oドロップレット)が主に用いられてきました。しかし、油中水滴は外側が油であるため、一般的な細胞解析・分取に用いられるフローサイトメーターやセルソーターなどの解析機器との互換性が低いという課題を抱えています。

そこで、外側が水相となる水中油中水滴(W/O/Wドロップレット注1))や、脂質や高分子からなるカプセルが注目されています。外側が水系のカプセルであれば既存の分析機器と互換性を保てますが、従来のマイクロ流路技術では、均一な二重エマルションを生成するために流路壁の部分的な表面処理が必要であり、実用化や普及の障壁となっていました。さらに、リポソームなどの脂質カプセルは、温度変化や環境変化で壊れやすいという弱点があり、一方で強い構造を作製可能である合成ポリマーカプセル注2)は特殊な材料の合成コストなどが普及を妨げています。

そこで本研究は、食品添加物として安全であり、低コストで入手できる両親媒性高分子のTGPR(テトラグリセリン縮合リシノレート)注3)に着目しました。本研究グループが独自に開発したマイクロ流体デバイス注4)を応用することで、流路の表面処理なしに均一で安定性の高いTGPRカプセル(W/O/Wドロップレット)を生成し、水系を扱う分析機器と互換性のある実用的なバイオリアクター注5)としての有用性を実証することを目的としています。

2.研究内容と成果
本研究グループは、これまでに開発した単分散リポソーム作製用マイクロ流体デバイスを応用し、食品添加物として利用されているTGPRを用いたポリマーカプセル作製技術を開発しました(図1)。

本手法では、まず流路内で均一な水中油滴を形成し、その後、油水界面を通過させることでポリマーカプセルへ変換します。流路表面のコーティングを必要とせず、シンプルな構造で高い再現性を実現しました。生成されたカプセルは平均粒径約20〜35 μmであり、粒径のばらつきは極めて小さく、高い単分散性を示しました。さらに、流路の高さや圧力条件を最適化した結果、液滴が界面通過時に自発的に分裂する現象を発見しました。この現象を利用することで、1秒間あたり約160個という高い生成速度を達成しました。これは従来条件と比較して大幅な高速化に相当します。また、本手法で作製したカプセルは水相中に分散しているため、市販のフローサイトメーターで容易に解析可能であることも実証しました。

続いて、本カプセルを人工的なバイオリアクターとして利用できるか検証しました。まず保存安定性を評価したところ、脂質膜ベシクルでは3日後に多くが崩壊した一方で、TGPRカプセルは80%以上がカプセルの形態を維持していました。次に、バイオテクノロジーにおいて重要な拡散増幅反応であるPCR注6)に必要な95℃の熱サイクルを40回与えたところ、脂質膜ベシクルはほぼ崩壊したのに対し、TGPRカプセルの大部分は構造を維持しました。また、実際にPCR試薬を封入したカプセル内部でDNA増幅反応が進行することを確認しました(図2)。最後に、大腸菌をカプセル内部へ封入して培養したところ、24時間後にはカプセル内部で顕著な増殖が観察されました(図3)。これはカプセルが微生物培養用の微小バイオリアクターとして利用できることを示しています。

3.今後の展開
本研究で開発したTGPRポリマーカプセルは、食品添加物由来の安全性の高い材料を利用しながら、高い均一性、大量生産性、耐久性を兼ね備えています。今後は、単一細胞解析、微生物スクリーニング、分子進化実験、人工細胞研究注7)などへの応用を進める予定です。また、フローサイトメーターやセルソーターとの組み合わせにより、従来の油滴系では困難であった高スループット解析技術の実現が期待されます。さらに、食品・医薬・診断分野における微小反応容器としての利用や、合成生物学における人工細胞プラットフォームとしての発展も期待されます。

●この研究成果のもととなった研究経費(主管庁、配分機関等)
科学研究費補助金(文部科学省)
・基盤研究(B)(鈴木宏明代表、24K01320)「マイクロ流路による多階層人工細胞構築基盤4.0」
・学術変革領域研究(A)(鈴木宏明代表、24H01155)「超越バイオリアクターとしての均一非脂質ソームシステムの開発」

部分的な研究経費:学術変革領域研究(A)(瀧ノ上正浩代表、鈴木宏明分担、20H05935)「DNAナノスケールのモダリティ」、基盤研究(B)(鈴木宏明代表、19H02576)「脂質二重膜バイオリアクタ形成デバイスの開発とバイオマーカ検出技術への応用」、基盤研究(C)(津金麻実子代表、24K08214)「核酸医薬のDDSを指向した核酸封入膜小胞の新規作製法の開発」、学術変革領域(A)(豊田太郎代表、20H05969「分子デバイス統合によるミニマル人工脳の構築とその社会的イノベーション」)

科学研究費補助金以外の研究経費
・中央大学理工学研究所「マイクロ流路による多階層人工細胞構築基盤」(2023~2025年度)





用語解説

注1)W/O/Wドロップレット(Water-in-Oil-in-Water droplet)
水滴を油で包み、そのさらに外側を水で囲んだ三層構造の液滴。二重エマルション(ダブルエマルション)とも呼ばれる。内部に生体分子や細胞を封入できることから、人工細胞や薬物送達システム、微小反応器などの研究で広く利用されている。

注2)ポリマーカプセル
細胞サイズの微小な液滴を、高分子性の膜で包んだカプセル状の構造体。人工細胞や微小反応容器(バイオリアクター)として利用される。従来広く用いられてきた脂質二重膜小胞(リポソーム)は膜が薄く壊れやすいという課題があった。本研究で開発したポリマーカプセルは高い安定性を有し、生物学実験への応用が期待される。

注3)TGPR(テトラグリセリン縮合リシノレート)
食品添加物として広く利用されている界面活性剤の一種。油と水の界面に吸着して液滴を安定化する働きを持つ。チョコレートやマーガリンなどの製造において乳化剤として使用されており、安全性が高く、安価である。

注4)マイクロ流体デバイス
幅や高さが数十~数百マイクロメートル程度の微細な流路を持つデバイス。微小空間内で液体の流れを精密に制御できるため、均一な液滴や人工細胞の作製、単一細胞解析などに広く利用されている。本研究では、研究グループがこれまでに開発した人工細胞製造用マイクロ流体デバイスを利用し、均一なサイズを持つポリマーカプセルを連続的に作製した。

注5)バイオリアクター
細胞や酵素、生体分子などを利用して化学反応や生物学的反応を行う反応容器を指す。医薬品製造や発酵工学、合成生物学などの分野で広く利用されている。

注6)PCR(Polymerase Chain Reaction:ポリメラーゼ連鎖反応)
DNAを酵素反応によって増幅する技術。遺伝子解析や感染症診断、法医学検査など幅広い分野で利用されている。反応の過程では90℃以上への加熱と冷却を繰り返すため、反応容器には高い耐熱性が求められる。

注7)人工細胞研究
脂質やDNA、タンパク質など細胞を構成している分子や、その他さまざまな非生物的な材料を用いて、細胞を模擬した構造や機能(代謝や自己複製など)を人工的に構築する研究です。細胞の基本的な性質や機能を解き明かすとともに、微小な化学工場としての医療・バイオテクノロジーへの応用が期待されています。

―東京大学大学院総合文化研究科・教養学部 広報室―

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