University of Tokyo

04/16/2025 | Press release | Distributed by Public on 04/15/2025 22:09

「南岸低気圧」の活動が春に活発になるメカニズムを解明

国立大学法人筑波大学
国立大学法人東京大学
国立大学法人京都大学

本州南岸を東進する「南岸低気圧」は春に頻発し、太平洋側に雨や雪をもたらします。そのメカニズムを数十年間にわたる大気の四次元データを用いて解析し、冬から春にユーラシア大陸上で暖められた大気が東シナ海周辺で下層のジェット気流を強め、春に低気圧が発生しやすくなることを見いだしました。

本州南岸を東進する「南岸低気圧」は、太平洋側の人口・産業集積地帯に大雨や大雪をもたらし、農業、交通、物流、再生可能エネルギーによる発電など、私たちの社会や経済に大きな影響を及ぼします。この南岸低気圧が春に多く発生することは知られていますが、その理由は解明されていませんでした。
本研究グループではこれまでに、全球の大気データから移動性高低気圧を客観的に抽出する手法を開発し、北太平洋の高気圧・低気圧活動の季節性や近年の変化のメカニズムを明らかにしています。今回、この手法を数十年間にわたる大気の四次元データに適用しました。その結果、冬から春にかけて、日本の西にあるユーラシア大陸上で大気が暖められるのに伴って、東シナ海周辺で下層の西風ジェット気流が強まり、低気圧が発生しやすくなるために、南岸低気圧の活動が春にピークとなることが明らかになりました。
南岸低気圧の季節性を引き起こすメカニズムを知ることは、温暖化時の変化の理解を深め、日本域の季節予報の精度向上につながると期待されます。

研究代表者

筑波大学生命環境系
岡島 悟 准教授
東京大学先端科学技術研究センター
中村 尚 シニアリサーチフェロー(特任研究員)
京都大学防災研究所
吉田 聡 准教授

研究の背景

日本周辺は西から東へ低気圧が頻繁に通過する地域です。それらの移動性低気圧のうち、本州南岸を東進するものは「南岸低気圧」と呼ばれ、太平洋側の人口・産業集積地帯に時として大雨や大雪をもたらし、農業、交通、物流、さらには再生可能エネルギーによる発電など、私たちの社会や経済に大きな影響を及ぼします。この南岸低気圧が春に多く発生することは過去の研究で知られていましたが、そのような季節性をもたらすメカニズムについては、これまで解明されていませんでした。
本研究グループではこれまでに、全球大気再解析データから移動性高低気圧を客観的に同定する手法を開発し(Scientific Reports 2021、Jouranl of Climate 2022, 2023)、北太平洋の移動性高低気圧活動が対照的な季節性を示すことや(Jouranl of Climate 2023、Geophysical Research Letters 2024)、北太平洋の移動性高低気圧活動の十年規模の変化のメカニズム(Jouranl of Climate 2022)、短い時間で急激に発達する「爆弾低気圧」の活動が近年増加しているメカニズム(Jouranl of Climate 2022)を明らかにしています。そこで今回、この手法を用いて、南岸低気圧が春に増加するメカニズムの解明に取り組みました。

研究内容と成果

本研究では、上述の手法を過去40年間(1979~2018年)にわたる全球大気再解析データ(注1) に適用し、南岸低気圧の解析を行いました。その結果、冬から春にかけてユーラシア大陸上で大気が暖められ、それに伴って東シナ海周辺で対流圏中層の西風に沿った下流側の大気が暖められることで、対流圏下層のジェット気流が発達し、春に南岸低気圧が発生しやすくなることが明らかになりました(参考図)。
移動性低気圧の活動については、古くから世界各地で研究が行われてきましたが、本研究により、日本の社会・経済に大きな影響を及ぼしうる南岸低気圧に特徴的な季節性のメカニズムが解明されました。

今後の展開

今回の結果を含む本研究グループのこれまでの成果により、東アジア~北太平洋の移動性低気圧の活動、そして気候システムが有する季節性のメカニズムをより包括的に捉え、理解することが可能になります。このことは、日本および東アジア域の季節予報の精度向上や、温暖化の地域的な影響の理解深化にも貢献すると期待されます。今後さらに、海洋の変動などを介した南岸低気圧の活動の予測可能性や、温暖化時の活動の変化を調査、解明していきます。

参考図

春になるとユーラシア大陸上で大気がより加熱され(橙色)、対流圏中層の西風(薄い太矢印)に沿ったその下流側で対流圏中層が暖かくなる(赤色)。その応答として大陸上の下層で低気圧性の流れ(薄紅色矢印)が生じ、華南~東シナ海で対流圏下層の西風ジェット気流が発達して(灰色の細矢印及び黒線)、東シナ海周辺で大気の前線(紫線)がより多く発生するようになる。その結果、大気の前線に沿って東シナ海周辺で低気圧(赤丸Lマーク)が発生しやすくなり、南からの水蒸気の流入(紺色破線)と降水(灰色の雲マーク)を伴いながら発達・東進し、本州南岸に達することで、春に南岸低気圧の発生頻度がピークとなる。

用語解説

研究資金

本研究は、文部科学省「ArCSII 北極域研究加速プロジェクト」(JPMXD1420318865)、 科学技術振興機構 共創の場形成支援プログラム「地域気象データと先端学術による戦略的社会共創拠点」(JPMJPF2013)、環境省・(独)環境再生保全機構環境研究総合推進費(JPMEERF20242001)、文部科学省気候変動予測先端研究プログラム(JPMXD0722680395)、JSPS科研費(19H05702、20H01970、21H01164、22H01292、22K14097)、アメリカ大気海洋庁Climate Variability and Predictability Program(NA22OAR4310617)の一環として実施されたものです。

掲載論文

【題 名】 Mechanisms for an Early Spring Peak of Extratropical Cyclone Activity in East Asia
(東アジアの温帯低気圧活動の春のピークのメカニズム) 【著者名】 S. Okajima, H. Nakamura, A. Kuwano-Yoshida, and R. Parfitt 【掲載誌】 Journal of Climate 【掲載日】 2025年4月16日 DOI: 10.1175/JCLI-D-24-0203.1

問合せ先

東京大学 先端科学技術研究センター
シニアリサーチフェロー(特任研究員)中村 尚(なかむら ひさし)