この度は入社誠におめでとうございます。本日ここに、総合職128名、ビジネスエキスパート職23名、合計151名の新しい仲間を迎えることができました。
皆さんの社会人としての第一歩をお迎えするに当たり、本日は多くの役員・社員に加え、創業家より伊藤滋様・豊様、また、小林名誉理事を始めとするご来賓の皆様にもご臨席いただいております。この場を借りて、当社を代表し御礼申し上げます。皆さんと共に、このように盛大な入社式を執り行うことができることを、大変嬉しく思います。
まず初めに、私が入社式で毎年必ずお伝えしている重要な心得についてお話しさせて頂きます。
一つ目は、「三方よし」の精神です。
昨今、企業経営におけるESGやSDGsの観点において、たびたび「三方よし」という言葉が引用されています。この「三方よし」は、売り手、買い手、世間の三方が共に満足すると言う共存共栄の考えにあり、近江商人の経営哲学をルーツとする、現在の当社の企業理念です。創業の精神として引き継がれ、170年近く続く商いの基本であり、調和の心です。決して独りよがりになることなく、想像力を働かせて広い視野を培っていただきたいと思います。また、当社の「三方よし」の実践は、ビジネススクール最高峰の一つであるハーバード・ビジネス・スクールにおいてケーススタディに採用されており、世界的にも高い評価を頂いています。
二つ目は、当社の行動指針である「ひとりの商人、無数の使命」です。
これは、私にとっても、自分をリセットする時にいつも振り返る重要なフレーズの一つです。創業者である初代 伊藤忠兵衛翁の商人の心構えや学びを行動指針とした言葉であり、「商人の使命」とは、商いを通して地球上の様々な課題を解決し、人々の暮らしを豊かにしていくことだと言う原点を表しています。皆さんも、各現場においてその原点つまり商人としての使命を心に抱きながら、高い意識を持って仕事に向き合って頂きたいと思います。
そしてもう一つ、本日お伝えしたいのは、「商人は水であれ」です。皆さんは当社の企業CM、「パイナップル畑の商人編」はご覧頂けましたでしょうか。東京でDoleを担当する若手社員がフィリピンの現場に駐在し、現場で現地社員と一緒になって汗をかき成長していく話ですが、最後に「商人は水であれ」と言う言葉が出てきます。これも岡藤会長の言葉ですが、昨今の、情報のスピードが早く、予測の難しい環境の中においては、世の中の流れをよく見ながら柔軟に対応していく姿勢が大切だと言う事です。皆さんと同じ若手社員が東京本社を飛び出して、現場でしか培えない観察力や適応力を磨いていく話になっていますので、是非じっくりご覧頂きたいと思います。
皆さんのこれからの商人人生の中で、思い悩んだり、失敗したりすることがあるかも知れません。そんな時、自分に原点を振り返らせ、克服するエネルギーを与えてくれるのが「三方よし」、「ひとりの商人、無数の使命」、そして「商人は水であれ」です。本日からこの三つの言葉を心にとめて行動して頂きたいと思います。
さて、本日皆さんは満開に咲き誇る桜の下、ここ青山の東京本社ビルに一堂に会したわけですが、当社は本年8月に溜池山王の赤坂トラストタワーへ一時移転することを予定しています。皆さんがこの本社ビルで迎える最後の新入社員となりますので、本日は少しだけここ東京本社ビル建設の歴史についてお話しをさせて頂きたいと思います。
今から46年前の1980年11月にこの東京本社ビルは竣工しました。建設の最終決定が下された1977年当時の伊藤忠商事は、オイルショックに引き続く不況に加えて、エネルギー分野での大きな問題を抱えており、会社全体の合理化と収益力強化の途上にありました。また、1967年にこれまで支社であった東京が本社となり、東京と大阪の東西二本社制が始まり、主たる本社機能は東京へ移管されましたが、当時日本橋本町にあった東京本社ビルだけでは社員を抱えきれず、付近の6-7か所に分散した貸しビルを賃貸していました。そのような中、総合商社として更なる国際化、総合化を目指し、伊藤忠商事として場所を1つに一致団結するべく、当時の越後社長の時代に、ここ青山の地に東京本社ビル建設計画が始動し、次の戸崎社長が経営会議で他の役員からの反対にあいながらも、建設の最終決定を下されました。
さて皆さんお気づきかと思いますが、この本社ビルの正面玄関には、2つの石碑があります。一つは、当社の行動指針である「ひとりの商人、無数の使命」が書かれた石碑、そしてもう一つが定礎石です。定礎石の中に収められている戸崎社長の定礎の辞には次のような願いがかかれています。「総合商社として事業拡大に伴い、分散していた本社機能を、新しい東京本社ビルに集約する。産業社会から求められるさまざまな時代の要請や課題に応え、常に新しい時代を切り拓いていく決意のもと、このビルの更なる発展と会社の繁栄を願って、ここに揺るぎない基盤を築き、永遠に朽ちることのない柱礎を据える」と記されています。先ほどお話しした「三方よし」と「ひとりの商人、無数の使命」、「商人は水であれ」にも通じる願いがこの本社ビルには込められています。それから46年、この本社ビルは数えきれない伊藤忠社員の人生を見届けてくれました。入社から結婚、子育て、幾度の駐在、先輩後輩との交流等、このビルで泣いたり笑ったり、時には泊まったり、社会人人生の苦楽を共にしたかけがいの無い、思い出のふるさとでした。
そして現在、この東京本社ビルとともに当社は、岡藤会長CEOの指揮の下で、非財閥ならではの「マーケットイン 利は川下にあり」 の経営戦略に加え、独自の働き方改革でトップ商社の一角を担うまでに成長し、世間から注目を浴びる会社となりました。今皆さんが知る伊藤忠商事は常にトップを争う総合商社ですが、当社が大阪の繊維問屋から現在の総合商社へと成長する過程では、この場所で一人ひとりの社員が歯を食いしばり、無数の使命を果たしてきたということも知って頂きたいと思います。「温故知新」ではないですが、諸先輩方がバトンを繋いできた歴史を知ることで学べることもたくさんあるということを忘れないでください。
最後になりますが、今日から皆さんは伊藤忠の商人になる為の見習いを始めることになります。本日が実質 人生本番のスタートかもしれません。これまで皆さんが培ってきた知識と経験に、これから始まる伊藤忠商事での様々な経験を紡ぎ合わせ、皆さん一人ひとりの知見を高めると同時に人間力を磨き、次の伊藤忠を担う人材になって頂きたいと思います。かつて私が駐在していたアメリカでは、まず「Who are you?」から始まります。移民大国であるアメリカでは、肩書きではなく、「あなた自身が何者なのか、どんなキャリアの人間なのか」を問われます。皆さんがこれから伊藤忠商事で積み重ねる一つひとつの経験がキャリアとなり、そのキャリアが皆さんを成長させ、人生を彩りのある豊かなものにします。皆さんが持っているそれぞれの個性を活かして、好奇心を持って商社の現場を体験してください。時間はあっと言う間に過ぎていきます。まずはこれから習得する基本動作をしっかりと身に着けて、商人として、人間として大きく成長して頂きたいと思います。
本日ここに集った151名が立派な商人となってまたここ青山の地に帰ってくる日を楽しみにしています。
改めて、皆さんの入社を心から祝福し、私の歓迎の挨拶とします。